なぜ要るか
6章までで、ゲームは形になりました。ここからは作り方そのものをAIへ渡していきます。
まず気づいてほしいことがあります。同じ説明を何度もしていませんか。
- 「絵は背景を緑にして、細い毛束を描かないで」
- 「テストは vitest で、決まった作り方で」
- 「commitメッセージは何をなぜ変えたかを書いて」
僕は最初、これを毎回打っていました。そして毎回、少しずつ違う指示になっていました。 結果、出てくるものも毎回少し違いました。
これをスキルとして保存します。1-5で作った AGENTS.md の発展形です。
スキルというのは、手順を書いた1枚のテキストファイルです。決められた場所に置いておくと、AIが必要なときに自分でそれを読み、書いてある手順どおりに進めてくれます。プログラムではないので、書くのは日本語で構いません。
使う道具: なし(テキストファイルだけ)
AIプロンプト
この術の作業をAIへ任せるときは、これをそのまま貼ってください。
いまやった作業を、次から1コマンドで再現できるスキルにして。
name と description を付けて、手順と禁止事項を分けて書いて。
description には、僕が使いそうな呼び方を3通り入れて。
直前にやった作業のあとで貼ると、手順を書き出す手間がなくなります。
ルールとスキルは別物です
先に区別します。ここを混ぜると、どちらも使いにくくなります。
| いつ効くか | 例 | |
|---|---|---|
| ルール | 常に。全部の作業に効く | 命名の決まり、テストの書き方、コミットの作法 |
| スキル | 呼んだときだけ | 絵を作る手順、動画を書き出す手順、公開の手順 |
ルールは短く、スキルは詳しく。 ルールが長いと毎回の指示が重くなり、AIが全部を守れなくなります。
僕のいまの構成はこうなっています。
ルール 13本 常に効く決まり
スキル 45本 呼んだときだけ効く手順
ルールが13本しかないのが要点です。 増やしたくなるたびに「これは常に必要か、呼ぶときだけか」を考えて、後者はスキルへ回しています。
スキルは「読ませる手順書」です
中身は普通のMarkdownです。特別な形式は要りません。Markdownは、# で見出し、- で箇条書きを表すだけの文章の書き方です。専用のソフトは要らず、テキストエディタで書けます。
---
name: make-task
description: タスク作成、タスク票作成、タスク起票の依頼を扱うときに使う。
---
# タスク管理
タスク系の依頼を受けたら、以下の方針で進める。
## 必須ルール
- タスク定義には要点のみ記載する
- 詳細設計や実装方針をタスク本体へ二重記載しない
...
先頭で --- に挟まれている部分が、そのスキルの名札です。ここから下が本文になります。大事なのは先頭の2行だけです。
| 項目 | 役割 |
|---|---|
name |
呼ぶときの名前 |
description |
どんなときに使うか。 AIはここを見て、使うかどうかを判断する |
description が一番大事です。 ここが曖昧だと、必要なときに読まれません。
呼び方も特別ではありません。ふだんの言葉で「タスク票を作って」と頼めば、AIが description を見て「これはあのスキルの話だ」と判断し、自分で読んでくれます。こちらから「あのスキルを使って」と指定する必要はありません。
書くコツは、依頼者が使いそうな言葉を並べることです。上の例では「タスク作成」「タスク票作成」「タスク起票」と3通り書いています。呼び方が揺れても拾われるようにするためです。
いつスキルにするか
判断は簡単です。3回目で作ります。
| 回数 | やること |
|---|---|
| 1回目 | 普通に頼む |
| 2回目 | 「前と同じで」と言う。まだ作らない |
| 3回目 | スキルにする |
1回目で作ると、まだ手順が固まっていないので作り直しになります。3回やると、変わらない部分と毎回変わる部分が分かります。 変わらない部分だけを書きます。
この講座の見本ゲームなら、声を足す作業(5-3)がこれに当たります。 台詞は場面ごとに1本ずつ足していくので、「最初に決めた同じ声で作る・2秒以内のmp3にする・assets/voice/ の場面ごとのフォルダへ置く・再生音量は0.9で鳴らす」までが毎回同じです。変わるのは台詞の中身だけなので、スキルに書くのはこの4つになります。禁止も1行足します。「口パクの秒数を手で書かない」。 5-3で書いたとおり、差し替えのたびに必ず忘れる場所だからです。
大きくなったら分けます
手順が育つと1本では収まりません。そのときは親と子に分けます。
僕の場合、大きいものはこうなっています。
modeling 親 + 子9本 キャラの3Dを作る(部位ごとに手順が違う)
publish 親 + 子8本 公開する(媒体ごとに手順が違う)
image-generator 親 + 子4本 絵を作る(透過や差分で手順が違う)
video-generator 親 + 子3本 動画を作る
親は「どの子を使うか決める」だけにします。 4-1で使った透過処理も、この形の子スキルです。
分ける基準は判断の分岐です。「絵を作る」の中に「透過する場合」「差分を作る場合」があるなら、そこが子の境界です。
原本を1つに決めます
ここが実務でいちばん事故が起きるところです。
スキルは使う場所に配られていることがあります。プロジェクトの中、ホームの設定、複数のリポジトリ。同じ内容のファイルが複数の場所にある状態です。
僕はこれで一度失敗しました。配られた側を直して、次の配布で上書きされました。
だから決めます。
原本 1箇所だけ。ここしか編集しない
配布先 原本からコピーする。直接編集しない
配布は1コマンドにしておきます。原本から配布先へコピーする小さなスクリプトを1本用意して、更新のたびにそれを実行するだけにする、ということです。手でコピーすると、いつか片方だけ古くなります。
これは6-1で「同じ意味のものを2箇所に置かない」と書いたのと同じ話です。データでもファイルでも、正は1つ。
やってみる
同じ説明を3回した作業を1つ選ぶ
思い出せない場合は、過去のやり取りを検索してください。 同じ単語で何度も頼んでいる作業が見つかります。
手順を書き出す
--- name: game-shot description: ゲーム画面のスクリーンショットを撮るときに使う。図解用の画像を作る依頼で使う。 --- # ゲーム画面の撮影 ## 撮り方 1. 760x900 で開く 2. アニメーションはピーク位置で止める 3. キャラの表情は素の顔にする 4. jpeg 品質92で保存する ## 禁止 - 撮影用のコードを index.html へ残さない「禁止」を書くのが効きます。 やってほしいことより、やってほしくないことの方が、放っておくと起きます。
AIに書かせてもいい
自分で書くのが面倒なら、やらせた方が早いです。
claude -p "いまやった作業を、次から1コマンドで再現できるスキルにして。 name と description を付けて、手順と禁止事項を分けて書いて。 description には、僕が使いそうな呼び方を3通り入れて。"「呼び方を3通り」を指定するのが要点です。 ここが弱いと、作ったのに読まれません。
次に同じ作業が来たら、呼ぶだけにする
ここで判定します。説明を足さずに済んだら成功です。
足したくなったら、その内容をスキルへ書き戻します。スキルは1回で完成しません。 使うたびに育てます。
保存する
git add . git commit -m "ゲーム画面の撮影手順をスキルにした" git push
つまずきどころ
作ったのに使われない
description が弱いです。依頼で実際に使う言葉が入っているかを見てください。「撮影」しか書いていないのに「スクショ」と頼んでいる、というズレがよく起きます。
スキルが長くなりすぎた
判断の分岐で子へ分けてください。目安として、1本で1画面に収まらなくなったら分ける時期です。
内容が古くなって、間違った手順で進んだ
これが一番危ないです。スキルは強く効くので、古い手順もそのまま実行されます。
対策は「時点を書く」ことです。
- 2026年7月時点の手順。道具が変わったら書き直す
4-1で道具の推奨に時点を付けたのと同じ考え方です。
ルールに何でも書きたくなる
ルールは常に読まれるので、増やすと全部が薄くなります。「呼ぶときだけ必要か」を毎回聞いてください。 答えがイエスならスキルです。
同じスキルが2つできた
原本の場所を決めていないからです。編集する前に「原本はどこか」を確認する習慣にしてください。僕はこれを守れず1回やり直しました。
Windows の場合
ファイルを置く場所が違うだけで、中身は同じです。パスの区切りが \ になる点だけ注意してください。
次の一歩
今日やった作業を1つ、スキルにしてください。
完璧でなくていいです。5行でも構いません。 次に同じ作業が来たとき、それを呼んで、足りない部分を書き足す。この繰り返しで育ちます。
作業を渡せるようになりました。次はテストを書かせて、壊れたら気づける形にします!