なぜ要るか
前の術で、勝率を測って合格しました。でも測って合格しても「面白い」とは言えません。 壊れていないだけです。
ここでは、その次に何をするかをやります。題材はこの講座のサンプルゲームそのものです。
白状すると、「三つの的」は作り直しの産物です。
最初のサンプルは「数くらべ」でした。1・3・5の札を出して、大きい方が勝ち。作りやすさを優先した結果ですが、読者から「つまらない」と感想が来ました。そして原因ははっきりしていました。2-2で「面白さを先に1行で決めろ」と書いたくせに、サンプル自身に面白さの1行がありませんでした。 数くらべは、どの札もいずれ出すので「選ぶ意味」がほぼ無いのです。
結論より、途中の考え方を持ち帰ってください。新しいルールを思いつく→「本当に面白いのか」と疑う→理屈で殴り合う→最後は実測で裏を取る。この流れは、どんなゲームにもそのまま使えます。
使う道具: AI(反例探しとシミュレーション係)
AIプロンプト
この術の作業をAIへ任せるときは、これをそのまま貼ってください。
1) このルールで「◯◯するだけ」の必勝プランは成立しますか。
成立するなら具体的な手順を、しないなら天敵となる対抗手を示してください。
2) このゲームの方針を4つ実装して総当たりのシミュレーションを書いてください。
どの固定方針も勝ち越し率6割未満なら合格とします。
◯◯の部分は、自分が疑っている単純すぎる必勝プランに置き換えてください。
直すのではなく、作り直す判断
先に線を引いておきます。6-6は「直す」で、この術は「作り直す」です。
| どちらか | 症状 | やること |
|---|---|---|
| 直す(6-6) | 抜け道がある、引き分けが多い、勝率が偏る | ルールを1行変えて測り直す |
| 作り直す(ここ) | 壊れていないのに、遊んでいて何も考えていない | 面白さの1行から決め直す |
「調整で何とかなるか」を先に判断してください。 数くらべは調整では無理でした。選ぶ意味が無いという欠陥は、数字の調整では埋まりません。
新ルール案「三つの的」
面白さの1行というのは、そのゲームで遊ぶ人に毎回させたい判断を、1文で書いたものです。ここを決めておくと、あとの判断が全部それに照らして決まります。
面白さの1行を先に決めました。「どの的を捨てて、どの的を取るか」です。
- 使うもの: 1〜5の札の山を1人1組、的(まと)が3つ
- 始まり: 各自、自分の山から3枚配られる(残り2枚は伏せたまま)
- 手番: 手札1枚を好きな的の前へ裏向きに置き、同時にめくる。置いた札はその的に残る。3手番で置き切る
- 勝敗: 的ごとに合計の大きい方がその的を取る
- 終わり: 的を多く取った方の勝ち
数くらべとの違いは「どの札を」に「どこへ」が足されたことです。5がどれだけ強くても、5が守れる的は1つだけ。全部の的には勝てないので、毎手番「捨てる場所」を決めることになります。
足したのは1つだけなのに注目してください。ルールを増やして面白くしたのではありません。置き場所という軸を1本足しただけで、選ぶ意味が生まれています。
「〜でよくね?」と3回疑う
ここからが本題です。ルールを思いついたら、必勝法が無いか自分で潰しにいきます。 必勝法が1つでもあると、そのゲームは「面白そうに見える作業」になります。
実際にやった問答をそのまま載せます。
疑い1「強い札を2か所へ置けばいいだけでは?」
5→的X、4→的Y、1→的Zと散らす案。これには天敵がいました。弱い札の重ね置きです。相手が3+2=5を的Yへ重ねると4が狩られ、相手の5が的Zの1を拾う。強い札同士は戦わずに、2対1で負けます。
疑い2「じゃあ5と、4+1の5で、砦を2つ作れば?」
的を1つ丸ごと空けて、合計5の砦を2つ守る案。これはもっとはっきり負けます。空けた的は相手が1枚置くだけでタダで取れるので、相手は残り2枚で6以上を作ってどちらかの砦を割るだけ。「4+3」でも「5+2」でも作れます。
疑い3「なら相手の集中を読んで置き直せば?」
その読みをさらに裏切る配置があります。つまり、
散らす → 重ねに狩られる
重ねる → 散らし直しに狩られる
捨て場所を読む → 読みを裏切られる
3行とも「ある打ち方に強い打ち方が、別の打ち方に負ける」という関係です。つまり全部に勝てる打ち方がありません。
じゃんけんと同じ三すくみになっていて、「これを置けば勝ち」が存在しません。ここまで来たら見込みありです。逆に、疑いのどれかが通ってしまったら、ルールに戻って直します。
理屈で終わらせず、実測します
問答は所詮、口の理屈です。6-6で作ったシミュレーションの出番です。シミュレーションは、人が遊ぶ代わりに決まった打ち方で何千回も自動対戦させて、結果を数える方法です。採用基準を先に決めます——「どの固定方針も、勝ち越し率6割未満なら採用」。
ここでいう固定方針は、相手の出方を見ずに最初に決めた通りに打つやり方のことです。そして勝ち越し率は、引き分けを除いた中で勝った割合です。どれか1つで6割を大きく超えるなら、それは必勝法に近いものが残っているという合図になります。
5つの方針を書いて、各組み合わせ2万戦させました。
| 方針 | 勝ち越し率 | 評価 |
|---|---|---|
| 散らす(疑い1の案) | 51.5% | 五分。必勝ではない |
| 砦2つ(疑い2の案) | 50.3% | 五分。必勝ではない |
| 1点集中(重ねてタダ取り狙い) | 27.2% | 目隠しでやると最弱 |
| でたらめ | 38.4% | 基準線 |
| 場を見て毎手番判断 | 81.1% | 固定プラン全部に勝つ |
発見が2つありました。
1つ目。「相手の配置を見てから強い手」は、目隠しの固定プランにすると最弱でした。 疑い1への反撃として説明した重ね置きは、相手が見えているから強いのであって、先に決め打つと27%です。理屈だけで語ると、こういう思い違いに気づけません。
2つ目。「場を見て毎手番判断」だけが8割勝ちます。これは必勝法ではなく、盤面を見て考える人が、暗記で置く人に勝つということ。ゲームとしてはむしろ望ましい性質です。
実測すると、隠れた欠陥も出てきます
数字をよく見ると、まずいものが混ざっていました。「見て判断」同士の対戦が引き分け70%。同格同士だと決着がつかないゲームは退屈です。
ここから先は6-6で詳しく追いました。原因はシミュレーションの人工物が大半でしたが、「同点の的は誰のものでもない」というルール自体も引き分けの温床だったので、「同点の的は、あとに置いた方が取る」へ1行直しています。
大事なのは順番です。新しいルールが合格したあとに、また欠陥が出た。 作り直しは1回で終わりません。作り直す → 測る → 直すの順で、この術と6-6を行き来することになります。
人間の仕事と、AIの仕事
この作り直しで、実は僕はコードをほとんど書いていません。分担はこうでした。
| 人間がやったこと | AIがやったこと |
|---|---|
| 「つまらない」と認める | — |
| 面白さの1行を決め直す | ルール案への反例を出す |
| 「〜でよくね?」と疑う | 天敵になる配置を具体的に示す |
| 採用基準(6割未満)を決める | 5方針のシミュレーションを書いて回す |
| 引き分け70%を「まずい」と判断する | 原因の切り分け実験を回す |
| 修正ルールを選ぶ | 再実測する |
細かい技術は全部AI側にあります。 人間側に残るのは、疑うこと、基準を決めること、数字を見て「まずい」と言うこと。ここを handhold できるAIはまだいません。逆に言えば、ここさえ握っていれば、実装力が無くてもゲームは面白くできます。
やってみる
自分のゲームの面白さの1行を読み直す
無ければ2-2に戻って決めてください。作り直しはそこからです。
「〜でよくね?」を3回ぶつける
自分で3つ、単純すぎる必勝プランを考えて、AIに聞きます。下の文をそのまま貼って構いませんが、その前に自分のルールの説明文を貼っておいてください。ルールを知らないまま答えさせると、当たり障りのない返事しか返ってきません。
このルールで「◯◯するだけ」の必勝プランは成立しますか。 成立するなら具体的な手順を、しないなら天敵となる対抗手を示してください。採用基準を先に決めて、実測する
このゲームの方針を4つ実装して総当たりのシミュレーションを書いてください。 どの固定方針も勝ち越し率6割未満なら合格とします。基準は結果を見る前に決めるのが要点です。 結果を見てから基準を動かすと、何でも合格になります。
同格対戦の引き分け率も見る
同格対戦とは、同じ打ち方どうしをぶつけた結果のことです。ここが荒れていると、腕の近い人同士の対戦が決着しないゲームになります。勝率だけでなく引き分け率を出させてください。高すぎたら、決着がつくルールを1行足します。
保存する
git add . git commit -m "ルールを疑って実測し、同点の扱いを直した"
つまずきどころ
反例が思いつかない
「一番強い札を全部同じ所へ」「毎回同じ場所へ」「相手の真似」の3つは、どのゲームでもまず試す価値があります。あとはAIに探させてください。
シミュレーションの結果が信じられない
正しい疑いです。今回も引き分け70%は人工物でした。AI同士の対戦は、同じロジックの鏡写しになっていないかをまず疑ってください。揺らぎを入れて再実測すると切り分けられます。
勝率は五分なのに、遊ぶとつまらない
勝率は「壊れていないか」の検査で、「面白いか」の検査ではありません。最後は2-2の1行——今回なら「捨てる決断が毎手番あるか」——を自分で遊んで確かめてください。
直したら別の必勝法が生まれた
よくあります。ルールを1行変えたら、疑い3回と実測をもう1周してください。6-6でやった「直して測る」の輪の中に、この術も入っています。
Windows の場合
差はありません。
次の一歩
自分のゲームに「〜でよくね?」を1つぶつけて、AIに天敵を探させてください。
天敵が見つかるうちは、そのゲームには読み合いが残っています。
ここまでの三つの的
この講座は、見本ゲーム「三つの的」を術ごとにすこしずつ育てながら進みます。下にあるのはこの術を終えた時点の実物です。そのまま遊べます。